ばくぜんと調理師をめざしていた学生時代。決して真面目な生徒とは言えず、先生方を困らせたこともありました。しかし、卒業後、料亭への就職を経て、道場六三郎先生のもとで7年間修業する機会を得て、人生が変わりました。さまざまな先輩方と出会い、めざすべき調理師像が明確になりました。「自分の料理や接客を通して、目の前のお客様に満足していただきたい」。そんな思いの強さに刺激を受けたのです。現在、自分の名前「貝渕卓也」をそのまま店名にした日本料理店を開いています。店内はカウンター10席のみ。メニューは月替わりの1万3000円のコース料理一つだけ。毎日、豊洲市場に足を運び、自分で確かめた食材のみを仕入れています。器や店内に飾る花も自分自身で選んでいます。いずれも、自分のお店に来ていただいたお客様に対して、最高のおもてなしをしたいから。カウンター越しに料理をお出しし、それを口にしたお客様にすぐに「おいしい」と言っていただける。この瞬間ほどの大きな喜びはありません。今でも、休日には勉強のために、修業時代にお世話になった先輩方のお店を訪れています。お客様一人ひとりともっとしっかりと向き合うために、将来的にはカウンター6席にすることも考えています。お客様のためにすべてに徹底的にこだわること。その努力に終わりはありません。